人気ブログランキング | 話題のタグを見る

続・ひとたびはポプラに臥す 1


☆無知の知を教える本.

前回の記事は、→ここをクリック!
気付けば、私は「ひとたびはポプラに臥す 1」を夢中で読んでいた。
宮本輝(みやもとてる)の世界に引き寄せられ、すっかり圧倒された。
それは、旅の途中の異常な出来事に度肝を抜かれたのだ。
異常というと、これは中国にとって失礼な言い方であるが、あまりに異なる日本の生活とのギャップに、感想を聞かれても言葉にできないようなショックを感じた。
「日本人の感覚で中国を見てはならない」と思った。

○想像を絶する世界.

この本には、貧困というには程遠い、恐るべき生活の実態が書かれている。
そのいくつかを抜粋してみたい。(文章の一部を変更しています)



1.
黄砂にかすむ街並みに、蒲団(ふとん)と鍋とわずかな食器を背負った夫婦が、歩調の遅い2人の幼児を叱っている。どう見ても流浪の一家としか思えなかったので、通訳に「あの一家はいかなる境遇か」と訊いた。
いなかから職を求めて着の身着のままたどり着いたのであろうという。
夫婦と2人の幼児は、いったい何日体を洗っていないのかと思える皮膚の色で、4人の靴はみな破れている。
「この国では、国民が全て公務員なんだろう? それなのに、あてもなく着の身着のままでやってくる?」、「仕事ハ、ミツカラナイネ」、「では、あの一家はどうなる?」、「ドロボウデモスルシカナイヨ」、「共産主義は、あの夫婦に職を与えないのか?」‥
私のかすかな皮肉に、通訳は答えた。
山脈沿いの村々には、家中の現金が三十元もないという家が沢山あると。
2.
民家の明かりが見えた。近づくと民家の明かりは、せいぜい30ワットほどの豆電球にすぎないが、漆黒の闇は、その豆電球をとてつもない光源に変えて、疲れた私の目に差し込んでくる。
「豆電球って、こんなに明るいんだ」、「星がすごいですよ」‥
空を見ると、山と樹木以外はすべて星ではないかと思えるほどであった。
3.
巨大な工業都市・蘭州(人口350万人)まであと1時間である。
人工衛星から中国の写真を撮っても、蘭州だけは写らなかったという。
汚染された大気が厚く覆っているせいなのだ。
何気なく畑の畦道(あぜみち)に目をやると、工場排水の混じった黒い水が流れている。混じったというより、工場排水そのもののように見える。
「これは大変なことになるぞ。とんでもない公害が、人間の体を無茶苦茶にするぞ。この水は猛毒だ」と言うと、通訳は言った。
「大丈夫。蘭州ナンテ、中国大陸ノナカノ小サナホクロデス」、「天安門事件ののとき、鄧小平が言ったらしいよね。天安門で百万人が死んでも、中国ではたいしたことはないって」
そう口にしたが、私はその言葉を直接聞いたわけではない。
4.
横河は黒く汚れ、油の匂いがする。
黄土を掘ってコールタールを作る作業員が、全身をコールタールにまみれて働いている。おそらく現場の気温は50度を超えているだろう。
5.
人間のいるところ、ことごとくが不毛だ。
町という町は、すべて埃と悪臭と悪意とワイロと無表情ばかり。
俺は20年かかって、この武威に来たんだぞ。羅什(らじゅう)が苦節の16年をおくったかつての涼州は、こんなにも埃にまみれている地なのか。ここには何もないではないか。
6.
かつての城も町も、すべて砂に埋まってしまった。
ここで、いかなる人間の営みがあったのか、もはや何もわかりはしない。
私は城門の陰から出て、白の一部であったであろう大きな遺跡へ歩き出した。
砂の上に動物の骨があった。ひからびた固い土を踏んで、かつての城壁かと思われる場所にのぼった。
すさまじい風のなかで四方を見渡しても薄い樹木が砂嵐のなかでかすんでいるだけで、他の何物も視界にはいってこない。
7.
トラックの前方にひとりの人間が障害物となっている。
その人間を避けて砂漠に車輪を入れてしまうと、自力でアスファルト道には戻れない。
その人間は、両脚の膝から下がない。膝と手を使ってトラックの前を右に行ったり、左に行ったりしながら通せんぼしている。
金をくれ。たとえわずかでもいいからめぐんでくれ。もしくれないなら自分はお前の車の前から離れない。それでも通るというなら、俺をひいていってくれ‥
男は無言であったが、運転手を見上げる目はそう語りかけていた。
私たちのマイクロバスは、トラックの横を素早く通り抜けた。
ひくならひいてくれ。きょう、なにがしらの金をめぐんでもらえなかったら、俺は飢えて死ぬんだ。お前のトラックにひかれていま死んでも同じことだ。
脅しでもはったりでもなく、男の目は淡々とそう語りかけていた。



○所感2.

以上、7つの内容を断片であるが参考に掲げた。
実は、この1巻には、このような描写が各所で語られるのである。
私たちが日ごろテレビや新聞で知らされている中国とは明らかに違う。
かけ離れた姿‥それは、凄まじいまでに不幸な人々の生活‥
およそ、日本において貧困と表現される生活は、中国の貧困に比べればまるで天国である。私たちが辛いとか苦しいとか言っている事象は、かの国の悲惨において、まるでオアシスである。日本には貧困は存在しない‥そんな気がしてくる。
仏教が生老病死の四苦からの離脱を願って誕生したと言われるが、世界の僻地での生老病死とは、私たちが認識している程度のものではない。
私は読み終えて、しばらく身動きができなかった。
私たちは本当の苦悩を知らないのではないか。だから、本当の幸せも感じられないのではないか。そんな思考がぐるぐると廻った。
そして私は、今、不思議な感覚に囚われている。
「もしかすると、私はこの世の中のことを何も知らないのではないか」と‥

これから、私は2巻以降を読むでしょうか?
読む可能性は高いと思います。けれど‥読まないかも知れません。
残りの5冊に書かれるであろう結論を、知らないままに謎として残しておくのもいいのではないか‥読むことがもったいないとも思うのです。(^^)
次の記事は、→ここをクリック!

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 仏教へ
ブログトップへ
by sokanomori3 | 2014-11-24 06:10 | 一般書籍のご案内 | Comments(4)
Commented by 千早 at 2014-11-25 07:33 x
世界には想像を絶する大変な不幸な人がいる。
夏に「わたし8歳、カカオ畑で働きつづけて」という本を途中まで読みました。
小さい子供たちが親元を離れ毎日過酷な労働をさせられている事実が書かれてあり、辛くなって途中で読むのをやめました。
戦争病気犯罪虐待災害環境汚染…
世界はなんて苦しみに満ちているんだろう。
生きていくってなんて苦しいことだろう、生老病死の苦しみとか、やっぱり思いました。
自分には何もできないから、「世界の平和といっさい衆生の幸福のために」と勤行最後のご祈念文心こめてするようになりました。
身近な人達から仏法対話して折伏努力していく以外、生老病死の苦しみから開放される方法はないんだろうと思いました。
Commented at 2014-11-25 09:20 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by sokanomori3 at 2014-11-27 06:54
千早さん、おはようございます。
想像を絶する不幸な人々‥その現実をこの第一巻は語ります。
でも、その不幸を照らすスゴイ幸福がある。

>辛くなって途中で読むのをやめました。

この本は、大丈夫ですよ。
痛烈に辛く、痛烈に面白いのです。
私、すっかり宮本輝に魅了されました。(^^)
★菊川広幸
Commented by sokanomori3 at 2014-11-27 07:01
09:20さんこと、Fさん、おはようございます。
この本を教えてくださって、感謝、感謝です。
きっとこの本でなければ、「暗い宮本輝作品」では、泥の河のように跳ね返されたかも知れません。
宮本輝入門書としては、これでしょうね。

実は昨日、ポプラに臥すの2巻から6巻買いました。
完璧にはまりました。(笑)
きっと、全六巻の感想文、書くと思います。
こちらこそ、本当にありがとうございました!(^^)
★菊川広幸


創価の森通信Freedom   音声ソフト対応BLOG


by sokanomori3

外部リンク

検索

カテゴリ

全体
ブログ案内
ひらがな御書の集い
ひらがな御書
ひらがな御書に学ぶ
ひらがな御書の解説
座談会御書・解説
御書の登場人物
仏法用語
小さな一歩でしゅっぱ~つ♪
千早抄 (体験談)
千早美術館
前略 千早さま
愛別離苦
日本点字図書館見学記
新版御書の拝読
新人間革命読書感想文
聖教新聞
創価学会総本部
日蓮大聖人
池田大作先生
池田先生の詩
池田大作先生の逝去
戸田城聖先生
牧口常三郎先生
幹部指導
功徳を得る信心
創価学会の記念日
創価ニュース
学会書籍のご案内
折伏教典の研究
創価学会歌
希望の哲学
創価学会の問題
宮田幸一氏問題
妙音・自由の人
障害者スポーツ
自在の人
自在会情報
視覚障がい書籍紹介
盲導犬
勤行 唱題
公明党
政治
一般書籍のご案内
管理人より
読者の皆さまへ
創価の森の小さな家
飼い猫ラッキ一
<別館>のご案内
創価の森通信フリーダム
学会員として生きる
体験談
地域の灯台たれ
窓際族以降の17年
私の仕事
親孝行
良死の準備
介護士への道2020
介護士への道2021
介護士への道2022
介護士への道2023
介護福祉士2023年5月~
介護士の転職方法
ウクレレ愛好家
ボランティア芸人
夢修行
健康づくり
怪我・病気対策
ミニマリスト
大工は魔法
料理は魔法
健康ジョギング
フルマラソン
ぼっちキャンプ
ウイスキー愛好家
雑記帳
つぶやき
俳句
ポエム
日本・世界遺産見学
経済
フェイクニュース
創価学会批判
紛争・災害ニュース
沖縄の戦争
21世紀の戦争
九州大震災
大白蓮華
グラフSGI
公明党候補一覧
新版御書の全編拝読
任用試験
老後の人生設計
他宗教
サカマキガイ駆除
日顕宗
ダイハツミラ660
太鼓
未分類

最新のコメント

つづきから どれも..
by sokanomori3 at 04:20
千早さん、おはようござい..
by sokanomori3 at 04:10
Commented ..
by sokanomori3 at 03:58
私のブログは、他サイトへ..
by sokanomori3 at 08:47
夕焼けさん、おはようござ..
by sokanomori3 at 07:19
Commented b..
by sokanomori3 at 06:59
菊川さん(*^^*) な..
by キョンシー at 07:53
追伸。 イチローも..
by sokanomori3 at 05:43
キョンシーさん、おはよう..
by sokanomori3 at 05:40
菊川さん(*^^*)毎日..
by キョンシー at 23:03
ユーチューブに太鼓の動画..
by sokanomori3 at 06:22
綿菓子さん、おはようござ..
by sokanomori3 at 06:11
こんにちは、思い切り太鼓..
by 綿菓子 at 08:47
非公開さん、おはようござ..
by sokanomori3 at 04:44
未来ある非公開さん、 ..
by sokanomori3 at 05:12
非公開さん、こんばんわ。..
by sokanomori3 at 19:17
非公開さん、こんにちわ。..
by sokanomori3 at 09:20
追伸 もう一つの譬..
by sokanomori3 at 12:32
千早さん、こんにちわ。 ..
by sokanomori3 at 12:20
非公開さん、こんにちわ。..
by sokanomori3 at 12:07

リンク

ランキング登録をしています。バーナーのクリック協力をお願いします!

にほんブログ村 哲学・思想ブログ 創価学会へ



PVアクセスランキング にほんブログ村

ひらがな御書ホームページ

以前の記事

2024年 11月
2024年 03月
2024年 02月
2024年 01月
2023年 12月
2023年 11月
2023年 10月
2023年 09月
2023年 08月
2023年 07月
2023年 06月
2023年 05月
2023年 04月
2023年 03月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 11月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 07月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 12月
2021年 11月
2021年 10月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 04月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月

ブログジャンル

ボランティア
介護