ひとたびはポプラに臥す 2
☆途方もなく大きな国の旅.
以下に、書籍「ひとたびはポプラに臥す2」の表紙写真を添付します。
昨年、ひとたびはポプラに臥す1を読みました。
ポプラに臥す1の感想文は、→ここをクリック!
1巻を読んだ感想は、以下のごときものでした。
「日本には貧困は存在しないのではないか。私たちは本当の苦悩を知らないのではないか。だから、本当の幸せも感じられないのではないか。もしかすると、私はこの世の中のことを何も知らないのではないか」‥
心を真っ白にさせられたというのが正直な感想です。
○プロフェッショナル.
宮本輝(みやもとてる)という作家のチカラは図抜けていると思います。
読み始めるとスーッと本の中の世界に吸い込まれ、その世界に完全に入ってしまい、通勤電車のガタゴト音が聞こえず、アナウンスの声も聞こえず、気付くと駅を乗り過ごしてしまう‥という具合なのです。
プロですね。作家の文章力というのは半端ない。(^^)
実は、この2巻を昨年読み、また、年明けに2度目を読んだのです。
結果、昨年も年明けも、朝の通勤電車を乗り過ごしてしまいました。会社に2度も遅刻するという代償を払いました。
○2巻のあらすじ.
この2巻に描かれる旅は、ゴビ砂漠を西へと進み、酒泉から西安、敦煌を経て、ウイグル自治区へと渡ります。
もともと、私自身、鳩摩羅什(くまらじゅう)に憧れを持っていたからこそ、この本を読む気持ちになったのです。
「羅什とはいかなる人か。宮本輝は必ず鮮烈な答えを与えてくれるだろう」
そんな期待から読み始めたのですが、作者は中国という途方もない大きな国を延々と語るのみ。やがて敦煌の話になりましたが、宮本輝は莫高窟をさらりと記述し終えます。
羅什が生き、羅什が見たであろう時代の第272窟と第275窟、さらに285窟を見学した宮本輝は、次のように記述するのです。
「窟のなかで見たものを、私はよく覚えていません。私はどういうわけか、そのようなものに心を動かされることがないのです」
彼は羅什に成り代わり、莫高窟の壁画を語ります。
「仏教が広まることは結構だが、私のひろめたい仏教はこのようなものではない。象徴的な架空の世界にもそれなりの意味はあるだろうが、架空は架空だ。俺はそんなものは15、6歳で卒業した。俺が伝えたいのは実相であって、浅い方便の教えではない」
命をかけて法華経を訳した鳩摩羅什はそのように考えていたというのです。
途方もない国土の生老病死の苦悩を解決するために、仏教の神髄たる法華経に心血を注いだのであるから、美術的なものに深い情熱を持ったとは考えにくい‥
私は、「なるほど、宮本輝の言う通りだ」と思いました。
この莫高窟の淡白な記述とは裏腹に、宮本輝は広大無比なシルクロードの砂嵐や熱さ、渇きや疲労などを書きつづるのです。
私は読みながら、熱砂を肌で感じ、喉に渇きを覚え、のめり込みました。
そして、ついに新疆ウイグル自治区に到達しました。そこから猛烈な砂嵐と竜巻の中をさらに西へ進み、火焰山(かえんざん)のふもとにたどり着きます。
「地図に描かれていた湖が干上がっている。涸れたんですね‥」
「何もないな。空もない。ただ天があるだけだ」
気温は50度となり、クルマが故障したら全員がミイラになるという激烈な大地の真っ只中で、宮本輝は次のように語るのです。
「山が、わずかの風もさえぎって、地表の温度は70度を超えていそうで、まさに煮え立つ地獄の窯の底といったところである。ミネラルウォーターが完全に湯になっていた。42、3度ありそうだ」
この地獄のような道を通って仏典は渡ったのですね。
○所感.
ひとたびはポプラに臥す2は、まだ、旅の始まりに過ぎません。
「宮本輝は何を伝えようとしているのだろう」と考えながら読みました。「読者を圧倒し、固定概念を捨てさせる意図をもって2を書いたのではないか」と思いました。
第2巻の冒頭で、宮本輝は述べています。
「日本は小さいので、それは仕方ないのであろうが、国土が小さいゆえの利権もあれば、(中国のように)それが大きすぎるゆえの利権のおそまつさというものもある」と。
日本は小さい。小さいがゆえの良いところがある。中国は大きすぎるがゆえの問題がある、というのです。
私はずっと、「日本は資源のない小さな国」と思っていました。しかし、小さいゆえに良いことがあるという著者の言葉に嬉しくなりました。
けれど、そんな日本人としての私の気持ちも、第2巻を読み終えるころにはすっかり消えていました。最後は、私自身が日本人だったか、中国人だったか、あるいはインド人だったかも分からなくなり、すっかり宮本輝と一緒に旅をしていたのです。
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by sokanomori3
| 2015-01-15 22:40
| 一般書籍のご案内
|
Comments(2)
Commented
by
10n5
at 2015-01-24 00:19
x
この記事の感想文に感動しました。広大な砂漠の熱気が伝わってきて、久遠の昔から沢山の人々を介して伝来された法華経が、その過程も含めて命なんだと、輝いているように感じました。この小説がとっても読みたくなりました!
Commented
by
sokanomori3 at 2015-01-24 07:57
10n5さん、おはようございます。
この本はいいですよ。おそらく、何度読んでもおもしろい本です。
私は感想文を書きながら読んでいるので、まだ3巻までしか読んでおりません。じっくり味わいたいという気持ちもあるのですが、仕事の忙しさもあるのです。
本当は、長期の休みをとり、ゆっくり堪能したいぐらいの魅力ある内容です。
でも、結論がどうか。納得の答えを用意してくれるのか‥
楽しみでもあり、不安でもあります。(^^)
★菊川広幸
この本はいいですよ。おそらく、何度読んでもおもしろい本です。
私は感想文を書きながら読んでいるので、まだ3巻までしか読んでおりません。じっくり味わいたいという気持ちもあるのですが、仕事の忙しさもあるのです。
本当は、長期の休みをとり、ゆっくり堪能したいぐらいの魅力ある内容です。
でも、結論がどうか。納得の答えを用意してくれるのか‥
楽しみでもあり、不安でもあります。(^^)
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